11月20日、熊野に到着したその日に、那智の朋子ちゃんに、家の近所にある「陰陽(いんよう)の滝」へと連れて行ってもらった。
駐車場から歩くこと10分ほど。夕刻で、日が暮れかけていたものの、なんとか明るいうちに滝まで着くことができた。ひっそりとした姿ではあるが、
大きな岩がまん中にあり、水をまっぷたつに割っている。ダイナミックな水の動き。見臺さんは、滝には雄滝と雌滝があると言っていたが、これはどちらだろ
う?
滝の姿をしばらく眺めた後、1曲演奏をさせてもらった。曲目はアイルランドの歌曲「Stor Mo
Chroi(我が心の宝)」。短調で、尺八のような間と、力強さを感じる曲である。翌日に、古澤さんも同席するパーティで演奏するつもりでいた曲。心が落
ち着き、音楽に没入できる瞬間だ。
最終日は、那智の大滝に行った。初めてここへ来たのは2007年の秋のことだった。それまでの人生で見たどの滝よりも大きく、また、神社のご神体
であることもあってか、神秘的だった。その時の気持ちをはっきりと覚えている。ここへは今回で3度目に足を運ぶことになるのだが、今回は2年ぶりに拝観料
を支払って、滝壺のそばまで行くことにした。
すると、なんと、滝つぼには虹がかかっていた。陽の光の具合が良かったのだろう。朋子ちゃんも、虹がかかっているのを見たのは初めてだという。滝に歓迎されているのだと感じた。
ここで、9月にはかなわなかった演奏をさせて頂いた。曲は、"Easter Snow"。アイルランドのスロー・エアーだ。目をつむって耳を澄ましていると、滝の轟音が近づき、自分のまわりを水に囲まれているかのような錯覚に陥る。
明るい日差し。虹。
喜びをこめて吹いた。すると、滝の音程が聞こえてきた。今思えば、理論的にはあるはずもないのだけれど、フルートが滝と調和する音程が感じられた。そして、音があった瞬間、体の中心から喜びがわき出てきた。滝が演奏の背景となるのではなく、滝と調和する演奏。本当に不思議な体験だったが、何かをつかみかけたような気がした。
白神でも、称名滝でも、笛を吹くことができなかった。
それは、余りに素晴らしい自然の中で、人間の存在の余りの小ささを感じたから。
最高の演奏家も、オーケストラも、大自然の中では無力だ。
自然と対峙するのではなく、その一部となり、調和すること。
那智で、自然との関わり方のヒントを得た気がする。