東京のアイリッシュ・ハープ奏者 坂上 真澄さんのブログ記事で、アイリッシュ・パブで演奏することについて考察を書かれていました。
僕もパブで良く演奏している身として、興味深く拝読しました。まずはこちらをご一読ください。
http://blog.goo.ne.jp/e-bunting/e/afac5159bccb6dbb86350c230e1af4bd僕はこれまで学生時代を含めて、長い間パブでの演奏の仕事をさせていただきました。僕に限らず、日本のアイリッシュ演奏家はパブとはなんらかのつながりを持っているのではないでしょうか。
坂上さんご自身がパブでよく演奏されていたというのは意外でした。ハープは、静かな曲で繊細な表現を楽しむことが主になるように思いますから、パブのような喧噪で聴くのが勿体ないように感じるのです。普段は音楽以外のほのぼのするようなトピックが多い坂上さんがここまで書かれたのだから、よほど思うところがあったのでしょう。
僕自身は、これまで、演奏の日に結婚式の二次会が入ったとしても、キャンセルされたことはありませんでした。演奏をパーティに絡めてくださったり、ライブ開始前には二次会を終わらせて頂いたり、配慮をしてくださっています。※ただし、何百回とライブをしてきたので、僕の記憶はあてにはなりませんが・・・。サッカーの試合で演奏が遅れることはありました。
学生時代から演奏していたパブは「させてやってる」雰囲気を感じることがありました。お金は出しても積極的に応援はしない、という立場です。今ではそのようなお店では演奏していません。
自分がレギュラー出演しているお店は、全て、こちらの考えをご説明し、納得して頂いた上で、支払方法、原泉徴収、演奏者の飲食、契約期間、キャンセル、宣伝についてなど、こまかい取り決めをし、契約書を交わさせて頂くようにしています。双方にとってメリットになるように、こちらも宣伝をし、レパートリーにスタンダードを入れるなどしますし、お店にもCDの販売をお願いすることがあります。
お店はエンターテイメントやPRツールとして生演奏を「買って」下さっているのですから、それに最大限お答えするのが当然のことだと思うのです。
坂上さんのおっしゃるように、何もしなければ演奏家の立場は弱いままです。僕自身も「来月からは中止だ」と一方的に言われたこともありますし、長期旅行から戻ったら自分のポジションが無くなっていたこともありました。友人で、毎週演奏のはずが、冬の暇な時期は前日にならないと演奏があるのかどうかわからない、という状態にさせられている人も見ました。
はっきり言いますが、海外と比べて日本のアイルランド音楽プレーヤーは未熟です。自分も含めて、まだまだ底上げが必要だと感じています。それなのに大都市圏にはパブが林立し、演奏者にお金を払ってライブをするという習慣が定着してしまいました。こんな状況は、他の音楽では珍しいのです。ロックで、ポップで、ジャズで、お金を頂きながらレギュラーで演奏(箱バンといいます)できるのは、一握りの人たち。たいていは、ライブをするために自腹を切っているんですよ。
そういうジャンルでは箱バンがやりたい人は大勢いるはずですから、厳選されたプレーヤーがステージに立つことになります。しかし、市場が成長期にあるアイリッシュ・パブでの演奏は、ミュージシャンの売り手市場なんです。
その結果、アマチュアもプロも玉石混合になってしまっていました。ではアマチュアとプロとは何が違うのか?それは、演奏技術は言うに及ばず、お客様を楽しませようと努力しているかor自分が楽しみたいのか、お金を頂いていることへの責任感が強いかどうか、という違いだと感じます。ぶっちゃけ、アイリッシュパブでの演奏は、その日に集まったきまぐれなメンバーで、演目も決めず、お酒を飲みながら、お客様にお話するわけでもなく・・・というスタイルが多いのではないでしょうか?
そのやり方が本場アイルランド流であることに間違いはありません。しかし、それがアイルランドで成立するのは、演奏者のレベルが非常に高く、演奏者同志が何年も何十年も一緒にやってきた仲だからです。また、プレーヤー人口が多く、セッションに集客力があるからです。それに、お客様の方も、伝統音楽をずっと聴いて育った人ばかりなのか、ほとんど聴いたことがない人ばかりなのか、という違いはとても大きいです。パブのスタッフの、伝統音楽への理解度も全く異なります。
日本では、そういった演奏者の姿勢が、パブの方に「させてやっている」という感覚を与えてしまうのではないでしょうか。
僕自身も、3年前くらいまではプログラムもアレンジもなく、お酒を飲みながら淡々とダンス曲を弾いていましたが、あるとき「気づき」があり、セッションは辞めました。以降バンドを作り、プログラムを組み、アレンジをして、リハーサルをしてライブに臨んでいます。唯一セッションを続けているのは、フィドルの大森ヒデノリさんの時だけ。僕と大森さんのデュオは、セッションでも十分クオリティが保てることに自信があるためです。
どうか、アマチュアの方にパブで演奏をしないでほしい、と書いているのだとは受け取らないでください。パブと奏者との間に合意があるのですから、僕がどうこう言うことはありません。ただ、自分はプロとしてパブでの演奏には一線を引いておきたいと思うのです。
僕が、これから先40代になってもパブで演奏しているという確証はありません。それまでに、しっかりと後継者を育てなくては・・・という責任を感じています。